こんにちは!今日は、W3C(World Wide Web Consortium)が公開している「Understanding WCAG 2.2(WAIC訳)」という解説を、“超訳”しながら、Webアクセシビリティの面白さと大切さを感じてもらえる記事にまとめます。
「アクセシビリティ=専門家の世界」と身構える方も多いのですが、実は“誰にとっても使いやすい作り方”の話です。エレベーターの「開」ボタンが見つからずにもたつく——あの小さなストレスを、ウェブ上で起こしにくくする取り組みだと考えるとイメージしやすいはずです。
本記事では、英語原文の要点を日本語で噛み砕き、日常の例に置き換えます。とくに3つの新基準(認証・フォーカス・ドラッグ操作)を“いますぐ試せる改善”とセットで紹介します。公式の立て付け(どの文書が規範か/解説か)にも軽く触れるので、迷子になりにくいはずです。
「Understanding WCAG 2.2」ってなに?(まずは位置づけ)
“Understanding”は、WCAG 2.2(ウェブコンテンツ・アクセシビリティ・ガイドライン)を読み解くための非規範の公式解説です。各達成基準ごとに「Intent(意図)」「Benefits(利点)」「Examples(例)」「Failures(避けたい失敗)」などが整理され、実装や設計の判断を助けてくれます。
ポイントは、規範(必ず守る本文)=WCAG 2.2本体、解説(背景やねらい)=Understanding という関係にあることです。仕様の“なぜ”や“どこでつまずきやすいか”を理解したいときに心強い相棒になります。
WCAGの4原則“POUR”を生活の言葉で置き換える
WCAGは「Perceivable(知覚可能)」「Operable(操作可能)」「Understandable(理解可能)」「Robust(堅牢)」の4原則で構成されています。難しく聞こえても、日常に置き換えればシンプルです。
- 知覚可能:見えない・聞こえない情報を減らす工夫をすること。例:画像に代替テキストを入れる。
- 操作可能:マウスだけに頼らず、キーボードや音声でも操作できること。例:タブ移動でボタンに届く。
- 理解可能:説明がわかりやすく、動きが予測できること。例:送信前に確認が出る。
- 堅牢:いろいろなブラウザや支援技術でも壊れずに解釈できること。例:セマンティックなHTMLと適切なARIA。
4つのどれかが欠けると、ユーザーは途中で詰まりやすくなります。逆に、設計レビューで「POURのどれに響く改善か?」と問いかけるだけでも、体験は一段よくなります。
2.2で増えた“新顔”から3つだけ超訳(+現場で効くコツ)
WCAG 2.2は2.1に9つの達成基準を追加しました。まずは日常操作に直結する3つを押さえることが大事かなと、3つだけ超訳します。
3.3.8 Accessible Authentication(Minimum)=「ログイン時のテスト」
超訳:ログイン時に“記憶力テスト”をしないでください。パズルや歪んだ文字の読解を強要せず、ペーストやパスワード管理ツールを妨げない、代替手段(例:WebAuthn)の用意を求めます。
なぜ? 記憶・注意・読解に負荷がかかると、一部の利用者にとっては“ログイン不能”になります。コピペ禁止や複雑なCAPTCHAは、まず疑ってみる価値があります。
2.4.11 Focus Not Obscured(Minimum)=「フォーカスを隠さない」
超訳:キーボードで移動したとき、今どこにいるかを示す“フォーカスの当たっている要素”が少なくとも一部は見えていること。固定ヘッダーや同意バナーがかぶってフォーカスが消えるUIはNGです。
コツ:scroll-padding-top などで“隠れない余白”を確保したり、浮遊要素を減らしたりするのが効きます。
2.5.7 Dragging Movements=「ドラッグ以外の道を用意」
超訳:ドラッグを必要とする操作には、ドラッグしない別ルート(単一ポインタやボタン操作)を提供してください。
例:カンバンのカード入れ替えに「上へ/下へ」ボタン、スライダーに数値入力。地図の移動に矢印ボタン。ドラッグは手先の細かさや環境に左右されやすいからです。
よくある一般論「まずはAA準拠」へのちょっとした疑問
「AAを満たせばOK」という言い方は方向は良いのですが、チェックボックス的に進めると使いやすさが置いてけぼりになりがちです。
たとえば3.3.8は“ペースト禁止をやめる”だけで制約を一気に下げられますし、2.4.11はデザインやCSS方針次第で最初から避けられます。なのに、チェックリストの最後に気づいて“直そうとしたら構造ごと見直し”というのがよくある落とし穴です。
Understandingは「意図」「失敗例」が充実しているので、なぜが共有しやすく、設計の初手からブレにくくなります。
日本の“あるある”3シーンで想像してみる
1)ログインのコピペ禁止:ワンタイムコードを見ながら手入力……の繰り返しはつまずきポイントです。ペースト可・パスワード管理ツール可にするだけで、負担はガクッと下がります(3.3.8)。
2)固定ヘッダー+同意バナー:タブ移動するとフォーカスがヘッダー下に隠れて“見えない”——これは迷子製造機です。余白調整や配置の見直しが効きます(2.4.11)。
3)ドラッグ必須UI:カードの並べ替えや画像トリミングなど、ドラッグに代替経路を置くと、片手操作や高倍率表示のユーザーにもやさしくなります(2.5.7)。
どれも“特別な支援”ではなく、みんなの使いやすさにつながるのがポイントです。
とはいえ全部は無理。だから“頻度×影響”で優先順位をつける
現実には、すべての達成基準を一気に網羅するのは難しいです。おすすめは次の3ステップです。
- ① 頻度×影響で並べ替える:ログイン・フォーム・ナビゲーションのように全員が高頻度で触る部分を上位に。
- ② 設計段階で潰せるものから:色とコントラスト、見出し構造、フォーカスの可視性、貼り付け許可ポリシーは設計レベルで決めやすいです。
- ③ Quick Referenceを“共通ハンドブック”に:要件⇄実装テクニックをすばやく往復できるので、チームで判断が合わせやすくなります。
いますぐできる3つの一歩(小さく始めて大きく効かせる)
一歩目:ログインのペーストを許可する。 これだけで3.3.8の趣旨に近づき、誤入力や疲労が減ります。
二歩目:フォーカスが隠れないCSS方針を決める。 固定ヘッダーの高さに合わせて scroll-padding-top を設定し、スキップリンクやダイアログでも“今どこにいるか見える”を守ります。
三歩目:ドラッグに代替UIを置く。 「上へ/下へ」ボタン、矢印ボタン、数値入力、メニュー選択など、単一ポインタ操作で同じ目的を達成できる道を作ります。
どれも今日から試せます。まずはひとつ、プロダクトの“つまずき”に効くものを選んで実装してみてください。
バージョンが増えるたびに“全部やり直し”なの?
よくある不安に答えておきます。WCAG 2.2は2.1に新基準を9つ追加したもので、2.0→2.1→2.2は基本的に後方互換です(2.2では4.1.1 Parsingが廃止)。実務では「今から作るものは2.2をターゲットに」「契約や規制が2.0/2.1でも、実装は2.2水準へ」を目標にすると迷いにくいです。
まとめ:WCAGは“守るため”だけでなく“届くため”の方針です
アクセシビリティはチェックリストの完了よりも、人に届く設計が目的です。
Understandingは、なぜ必要か・どんな利点があるか・どこで失敗しがちかを立体的に示してくれる“現場の教科書”。まずはログインの貼り付け可、フォーカスの見える化、ドラッグの代替——この3つから始めてみてください。続けるほど、プロダクトは軽やかになります。
改めて「WCAGはより多くの人にコンテンツを届けるための方針」であることをお伝えします。
参考リンク
- Understanding WCAG 2.2(総合)
https://www.w3.org/WAI/WCAG22/Understanding/ - About WCAG Understanding Documents(解説文書の位置づけ)
https://www.w3.org/WAI/WCAG22/Understanding/about - WCAG 2.2 本文(規範仕様)
https://www.w3.org/TR/WCAG22/ - What’s New in WCAG 2.2(2.1からの追加9基準)
https://www.w3.org/WAI/standards-guidelines/wcag/new-in-22/ - How to Meet WCAG(Quick Reference)
https://www.w3.org/WAI/WCAG22/quickref/ - 3.3.8 Accessible Authentication(Minimum)— Understanding
https://www.w3.org/WAI/WCAG22/Understanding/accessible-authentication-minimum.html - 2.4.11 Focus Not Obscured(Minimum)— Understanding
https://www.w3.org/WAI/WCAG22/Understanding/focus-not-obscured-minimum.html - 2.5.7 Dragging Movements — Understanding
https://www.w3.org/WAI/WCAG22/Understanding/dragging-movements.html - 4.1.1 Parsing(Obsolete and removed)— Understanding
https://www.w3.org/WAI/WCAG22/Understanding/parsing.html - WCAG 2 Overview(2.0/2.1/2.2の関係と更新)
https://www.w3.org/WAI/standards-guidelines/wcag/






