誰も取り残さないUIの基礎:デジタル庁デザインシステムで学ぶ7つのポイント

アクセシビリティ
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こんにちは!

今日は、デジタル庁デザインシステムβ版を題材に、「行政サービスは替えがきかない」という前提から、アクセシビリティを最優先にした設計の考え方をお届けしたいと思います。

行政の手続きは、そこで完結できなければ生活に直結する困りごとが生まれます。

だからこそ、最初の一歩から“誰も取り残さない”設計が大切です。

そのための実務的なコツを、やさしく、でも現場で使える粒度でまとめます。

デジタル庁デザインシステムβ版
デジタル庁デザインシステムは、スタイリングの考え方を提供するデザイン言語、情報の視覚表現とインタラクションを具現化するUIコンポーネント、ユーザビリティとアクセシビリティを踏まえた設計や実装のためのガイドラインから構成されるデザインアセットです。

要約

デジタル庁デザインシステムは、公的なデザインシステムのベータ版です。

ミッションは「誰一人取り残されない、人に優しいデジタル化」を支えることです。

色や文字、コンポーネント、テンプレートの仕様が整理され、アクセシビリティを最優先に据えています。

ただし「導入=自動的にアクセシブル」ではありません。

ユーザー調査、検証、改善の反復があって初めて“使える”体験になります。


一般論への疑問:本当に「WCAG」だけで大丈夫?

ウェブの現場では、「WCAG(またはJIS)に適合していればOK」という空気が生まれがちです。

もちろん基準に準拠することは重要です。

でも、そこで止まってしまうと、画面の読みやすさや入力のしやすさ、エラーからの回復のしやすさなど、日々の“使える感”が取りこぼされます。

たとえば夜、スマホで片手入力をしながら申請するシーンを想像してください。

コントラストや行間が十分でも、文言が曖昧だと詰まりますし、タブ移動や読み上げ順が狂っていると完了までたどり着けません。

つまり、数値基準は“最低限の安心”に過ぎないのです。


そもそもデザインシステムって何?(ものすごくざっくり)

デザインシステムは「設計・デザイン・実装をつなぐ、共通言語と部品のセット」です。

色や余白、タイポグラフィの基礎設計から、ボタンやフォームなどのコンポーネント、そして使い方のルールまでが一体になっています。

行政の現場で行う理由はシンプルです。

関係者が多く、調達から検収、運用までの距離が長いからです。

最初から“同じものさし”で話せれば、手戻りや認識のズレを減らせます。

デジタル庁デザインシステムはこの“ものさし”を、アクセシビリティを軸に具体化したガイドだと考えると分かりやすいです。


デジタル庁デザインシステムの核①:アクセシビリティ・ファースト(見える・読める・操作できる)

デジタル庁デザインシステムでは、テキストと背景のコントラストや、ボタン・リンクの判別しやすさが最優先で語られます。

一般的な本文テキストは、背景に対して少なくとも4.5:1以上のコントラストが必要とされます。

見出しのように大きな文字では例外があるものの、迷ったら“強めに確保する”が安全です。

色覚多様性への配慮として、単に色相を変えるのではなく、明度差を設計の主役に置く考え方が提示されています。

これはブランドカラーを守りつつ、読みやすさを両立するための実務的な手です。

タイポグラフィでは、行間や段落間、1行の長さ(全角40字前後を目安)など、読みやすさを左右する地味だけどルールが整理されています。

夜間の閲覧や拡大表示、長文入力といった、行政サイトで“あるある”な状況も想定されています。


デジタル庁デザインシステムの核②:汎用性と“行政の現場感”を両立するコンポーネント

デジタル庁デザインシステムは単なるパーツ集ではありません。

「ボタン」「フォーム」「パンくず」「警告・通知」「緊急時バナー」といった、行政の手続きで頻出する要素が、使い方の文脈と一緒に整理されています。

たとえばボタンは、ラベルの言い方、状態(ホバー、フォーカス、無効)、読み上げ順やフォーカスリングの扱いなど、画面の“ふるまい”まで踏み込んでいます。

この粒度だと、調達仕様書や検収観点にそのまま転記しやすく、ベンダーが変わっても品質がブレにくいです。

結果として、ユーザーに届く体験の“ムラ”が減ります。


デジタル庁デザインシステムの核③:継続的な改善と“生きた”ガバナンス

デザインシステムは、公開して終わりではありません。

OSやブラウザは更新され、支援技術も進化し、WCAGのバージョンも変わります。

デジタル庁デザインシステムはβ版として公開され、カラーやタイポグラフィ、ボタンなどの項目が順次アップデートされています。

つまりガイドは“静止画”ではなく“動画”です。

変更履歴を伴いながら、現場の課題や技術の変化を取り込み、ベースラインとなる品質を押し上げ続けます。


よくある誤解にツッコミ:「デジタル庁デザインシステムを使えば自動的にアクセシブル」ではない

強い土台は、強い建物を約束しません。

設計図が良くても、施工や検査、そして住んでからの手入れが必要なのと同じです。

デジタル庁デザインシステムは“土台”として非常に強力ですが、ユーザー調査、可用性テスト、読上げやキーボード操作の確認など、現場での検証が不可欠です。

海外の公的デザインシステムでも、ガイドの採用だけでは十分でないことが明言されています。

要するに、「ガイド+検証+改善」の三点セットで回して初めて“使える”になります。


情報設計とデザインを“同時に”進める:実務での使い方

デジタル庁デザインシステムの強みは、情報設計の下書きと、見た目の下書きを同時に進められる点です。

たとえば「引っ越し手続き」のオンライン申請を想像してみましょう。

必要な入力項目を洗い出し、ユーザーの思考順に並べ、確認画面やエラー表示の振る舞いを定義する。

このとき、デジタル庁デザインシステムのコンポーネント定義とアクセシビリティ要件を“共通言語”として使えば、企画・デザイン・実装・検収が同じ地図を見て議論できます。

結果として、齟齬や手戻りが減り、ユーザビリティテストやコンテンツ改善に時間を振り向けられます。


あるある課題をほぐす:色・文字・文言の三兄弟

「ブランドカラーが暗くて、4.5:1を満たせない」。

「文字が詰まって見えるけど、どこから直せばいいか分からない」。

「ボタン文言がふわっとしていて、離脱が増えている」。

現場ではよく出会う悩みです。

デジタル庁デザインシステムを手元に置いて、次の順番でほぐしてみてください。

まずは色です。

同じ色相のまま明度を調整して、テキスト用の色を別途定義します。

濃いめのテキスト色と、背景色のコントラストを確保するところから始めます。

次に文字です。

行間は1.5倍以上、段落間はさらに広めに取り、1行は全角40字程度を目安にします。

最後に文言です。

ボタンは「すること+名詞」(例:「申請を送信する」)で曖昧さを減らします。

この三兄弟を順に整えるだけで、読みやすさと完了率はぐっと上がります。


「JISに適合すれば十分?」への答え:+αの視点を

JIS X 8341-3やWCAGへの適合は、安心の土台です。

でも、ユーザー体験はそれだけでは成立しません。

認知負荷を下げるための文言設計、入力のやり直しをしやすくするUI、エラー箇所をすぐ見つけられるフィードバックなど、行動の流れ全体を設計する必要があります。

デジタル庁デザインシステムは、その“全体設計”のための共通フレームとして使えます。

「基準を満たす→人が使える」に橋を架けるのが、現場の仕事です。


とはいえリソースは有限:7つのポイント

全部を一気にやるのは現実的ではありません。

だからこそ、小さく確実にできるところから始めます。

  1. 申請フローの主要画面(開始→入力→確認→送信)だけ抜き出し、本文とボタンのコントラストを4.5:1以上に揃える。
  2. フォームの並び順を“ユーザーの頭の中の順序”に合わせ、不要な分岐を間引く。
  3. 行間は1.5倍以上、段落間を広めにし、1行は全角40字程度にする。
  4. ボタンは「すること+名詞」(例:「申請を送信する」)で具体化する。
  5. キーボードだけで完了まで到達できるかを、実機で確認する。
  6. 入力エラーは項目のそばに表示し、スクリーンリーダーが読み上げられるようにする。
  7. 最後に“自分以外の誰か”に10分だけ触ってもらい、つまずきを1つ直す。

この7つは割りかし簡単に実装・解決ができます。

“1タスク1改善”で回していけば、数週間で体験は目に見えて変わります。


「共通言語」としてのデジタル庁デザインシステム

調達仕様に「デジタル庁デザインシステムのコンポーネント準拠」「該当ページはデジタル庁デザインシステムのカラー/タイポグラフィ要件に整合」と書けると、要件の曖昧さがぐっと減ります。

検収時は、変更履歴(チェンジログ)と照らし合わせて確認観点を更新しやすくなります。

ベンダーと行政側で基準がズレにくく、引き継ぎの際も“公式の辞書”があると安心です。

ガイドが公開・更新され続けることは、組織の記憶を人から切り離し、資産として蓄積することにつながります。


というわけで:デジタル庁デザインシステムは“設計の参考書”。最後はユーザーと一緒に仕上げる

デジタル庁デザインシステムは、現場が迷いがちな判断に“根拠”を与えてくれます。

色をどうする、文字をどうする、ボタンはどう見せる。

こうした細部の積み重ねが、様々な状況・環境に応じた“アクセシビリティ対応”に直結します。

とはいえ、デジタル庁のデザインシステムはあくまで参考になるもので、根拠となるわけではありません。

地図を持っていても、実際の道は歩いてみないと分からないことが多いです。

だからこそ、デジタル庁デザインシステムをベースに、ユーザーと一緒に少しずつ道をならしていく姿勢が大切だと感じます。

最も参考にすべき事柄は、デジタル庁デザインシステムのようにアップデートをしていき、改善を続けていく文化や姿勢です。


参考リンク

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