私38歳、スラムダンク世代でありスラムダンクの影響でバスケットボールをしていたと言っても過言ではないけど実際はNBAのマイケル・ジョーダンがきっかけなんだけどそれはさておき映画を観てきました。
26年ぶりのスラムダンク
スラムダンクというと僕たち30代~40代の人間にとっては自分の青春時代で最も売れていたスポーツ漫画といっても過言ではないくらい大ヒットした作品です。
当時はギャグの一面も多く、それ自体もとても楽しめる作品でしたがそれ以上に「主人公の桜木が初心者と言いながら天才っぷりを発揮して暴れていく」という展開自体が少年漫画としてとてもおもしろいのです。
そして終わりを迎えてから26年。当時、スラムダンクを楽しんでいた世代は見事に「親世代」になっていることでしょう。
そんな中で本作は「大人になった貴方へ」というメッセージも含まれているのでは?という内容でした。
いぶし銀にしてもう一人の天才「宮城リョータ」が主人公
本作で評価が最も割れる要因になったのは主人公が「宮城リョータ」になったことでしょうか。
元々アニメの声優と変わってしまった、など諸々でも炎上していたかと思いますが内容に関しての評価に影響している点といえばこの「主人公の変更」というところでしょう。
よくよく考えると、宮城リョータの過去というものはほとんど掘り下げられていません。
いや、なんだったら3年生以外ほとんど掘り下げられていないかもしれない。
それでもスターターとなる5人「桜木花道」「流川楓」「赤木剛憲」「三井寿」そして「宮城リョータ」で言えば過去も現在もほとんど深掘りされていませんでした。
原作主人公の桜木は物語の中心にいるので自然と掘り下げられていましたし、3年生は様々な物語を生んでいました。あえて言うなら流川楓も掘り下げが浅い気もしますが彼自身も多くの見せ場と活躍がありました。
その中で、原作全編を通してもちょっと異常なくらい「格上」とばかり当たっていた宮城リョータは活躍も含めて過去やこれまでの経緯についてもかなり控えめです。三井寿は化け物じみたシューターだし、桜木は主人公としての才能を思う存分見せつけるし、赤木も基本化け物というかゴリラだし。流川も同様に天才。
宮城リョータも流川楓も掘り下げるシーンがあまりなかったせいか原作でもほとんど会話の機会、というかコミュニケーションを取ってないことが映画でも若干ネタにされていましたね。
親世代になった僕らは「宮城リョータ」を見守る側に
映画では宮城リョータが中心に物語が展開、というか山王戦を通してこれまでの出来事を含み「宮城リョータ」の過去からこれまで振り返っていきます。
確かに原作を忠実に再現するために従来の主人公桜木花道を中心に映画を展開していくことそのものが「原作ファン」は喜んでいたことでしょう。
しかし、宮城リョータが主役になることで原作を含めてスラムダンク自体に「物語の深み」を与えます。スラムダンク自体はややもすると「天才がひたすら暴れる爽快な漫画」である一方、物語としての深みがあるかといえば、桜木も過去自体はあまり触れることはないし流川楓も同様で、展開は楽しい一方で物語そのものの考察がそこまで必要ではないくらいスポーツしている漫画でした。
チームメンバーを最も影から試合を通して支えていた存在であり、ちょっと異常なほどの「強さと不屈の精神、そして感性」を持ったキャラクターが全国最強である山王戦でも安定して活躍できていたのか、という謎が語られていきます。
若干原作との違い(ヤスと小学生からの付き合いじゃなかったっけとか)はあるものの物語全体で見れば大きな問題でもなく、尚且つ「これが今のスラムダンクである」ということを示すことにもなっているのではないかと考えられます。
ギャグは控えめ、リアルな試合描写、そして音
漫画原作ではギャグも多く、言い方が正しいかは微妙ですが「時間が止まるシーン」が多いです。もちろん、それは漫画ならではの表現ですし、違和感や変である、ということではないです。
映画ではギャグ的な要素や一コマ一コマ丁寧に書いていたコミュニケーションなども「試合の経過と併走していた」ということです。
例えば漫画原作だとゴリが桜木の手のひらに手を打つシーンがあります。大げさな効果音と共に桜木の手が腫れ上がる、という流れでギャグ的な見せ方ですが映画ではかなり自然に行われ、試合展開の裏で走り抜ける桜木が手を真っ赤にしながら走る、という「ついでに見せる」という演出が多くありました。
ギャグ描写で時間が止まる、というシーンはほぼ皆無だったように思えます。
また、アニメなどでもよくあるような過剰な演出も控え目でした。
電撃が走ったり目から光が出てギュンギュン動く、みたいな演出はなく、とはいえみんな化け物じみた動きはしながらも「バスケットボールの試合として面白い」見せ方ばかり。
なによりも、全体的な音がとてもリアルでした。
場所によってボールの弾む音が変わっていたり、そもそもボールによっても音が変わっていたり、とにかくいろいろな箇所で音に拘りを感じました。
本当にバスケットボールを観ている、そんな気持ちにもさせてもらえます。
スラムダンクを読んで育ち、大人となり、子を持った人たちに観てほしい
原作漫画で一切触れられていなかった家族構成や過去、出生地などを通して、宮城リョータはとある大きな出来事から母親と確執を抱えながら、本編である全国大会山王戦まで進んでいきます。
母親は母親で宮城リョータと面と向かって話すことができなかったり、過去を引きずりながら生活をしていく中で、宮城リョータも同様に、本編や試合中では考えられないような「弱さ」を持っているのだと映画を観る僕たちに伝えてくれます。
吐きそうになったり、心臓がバクバクしていたり、いつだって安定した強さを発揮していたようにしかみえない宮城リョータは周囲にも母親にも同様に「何を考えているのか分からないと思わせる」くらい壁を作っていたのかもしれません。
過去から本編までの流れで幼い頃に宮城リョータに憧れていた、同様のチビである僕はその強さや外面しか見れていませんでした。
親視点を持ち、本作を見たときに宮城リョータ自身を応援したい気持ちでいっぱいになり、原作全てを暗記するほど読み込んだスラムダンクであるにも関わらず途中から涙が止まらなくなりました。
そう、これこそ新しいスラムダンクであり、スラムダンクが大好きだった少年少女が大人になったときに、26年という歳月の重みを感じることができる「母から卒業していく子の物語」でもあったのです。こればかりは桜木花道が主人公であった場合、なかなか難しいでしょう。
ほんの僅かなシーンでしたが、「宮城リョータの未来」も個人的には最も驚くところであり想像もしてませんでした。
同時に、あぁ、続編はないんだろうなぁとも思いながら、出るとしたら次は「THE NEXT SLUM DUNK」かな、とか妄想が膨らみます。
26年前の当時、赤木と小暮がいなくなった湘北でどうやって続編を作るんだよ、とか思いましたが様々な可能性を示してくれた映画は本当に観てよかったです。